同じ・等しいとは何か (外延性の公理)

前回は集合論の記号 $\in$ は2つのモノ (集合) の関係を表す記号であると説明した。今回以降では集合に関するルール (公理) を導入していくことで、2つの集合はどういうときにこの関係にあって、どういうときにこの関係に無いのかを明らかにしていく。この記事ではまず集合同士が等しいことと結びつけて考える。

同じ・等しいことを定める理由

この記事で紹介する『外延性の公理』は「2つの集合が同じ・等しい」とは何かを決めるルールである。「『同じ』は『同じ』なんだからわざわざ決めなくてもわかるよ」と思うかもしれないが、実は「何をもって『同じ』と見なすか」はきちんと定めないとはっきりしないものである。

例えば、あなたの目の前にミカンが2つ並んでいるとしよう。その2つの物体は『同じ』だろうか。あなたの隣にいる人は「同じだよ。だって、こっちの物体は何かと聞かれたらミカンと答えるし、あっちの物体が何かと聞かれても同じようにミカンと答えるよ。だから、この2つは同じ物だよ。」と言う。ところが別の人は「同じじゃないよ。だって、こっちの物体を僕が食べたとしよう。このとき、もしあっちの物体がこっちの物体と同じならあっちの物体を食べたともいえるはずだ。だけど実際はこっちの物体は食べたけどあっちの物体は食べていない。2つの物体について異なることが言えるのだから2つの物体は同じとは言えないよ。」と言う。

このように、何をもって『同じ』と呼ぶかを事前に決めないと個人個人の解釈任せになってしまい、「AとBは同じである」という結論と「AとBは同じではない」という結論がともに得られてしまう。これでは集合論の言葉を使う利点として紹介した「矛盾が見つかっていない」という利点が損なわれてしまう。これではいけないので、『同じ』とは何かを明確に定めることにする。

外延性の公理

では2つのモノ (集合) が等しいとはどういうことかを決めよう。今回は外延性の公理と呼ばれるルールを導入する。このルールは一階述語論理の言葉で書くと\[\forall x\;\forall y\;[x=y\leftrightarrow \forall z[z\in x \leftrightarrow z\in y]]\]となる。本来はこの論理式の読み方から説明したいところだが、本シリーズは最初の記事でも述べたように「ラフな学習」をしていくことにしているので、この論理式をどのように解釈すればよいかを提示してしまうことにする。

公理\[\forall x\;\forall y\;[x=y\leftrightarrow \forall z[z\in x \leftrightarrow z\in y]]\]

すなわち、いかなるモノ (集合) $x$, $y$ についても、「$x$ に属するモノがすべて $y$ に属していて $y$ に属するものがすべて $x$ に属する」なら $x=y$ (その2つは等しい) であり、そうでないなら $x\neq y$ (等しくない)。

この公理から、「同じ・等しい」とは「一方に属するものは必ずもう一方にも属している」こと、あるいは同じことだが「一方のみに属しているモノ (集合) は無い」ことであると定められたことになる。