自然数の乗法 (ペアノ算術)

この記事では、ペアノの公理を満たす『自然数』の乗法を定義し、その性質を論じる。ただし、加法はすでに定義できているものとして扱い、その加法は結合的で可換であることもすでに示されているものとする。

(いずれ自然数の記事シリーズを作ってそこに編入したいと考えている)

自然数とは

この記事では、自然数について以下の特徴があることを認める (つまりペアノの公理を採用する)。

  • 0は自然数である。
  • いかなる自然数についても、その『次の数』が1つだけ存在する。$n$ の次の数を $S(n)$ と表す。
  • 異なる2つの自然数が同じ次の数を持つことはない。
  • 0が次の数となるような自然数は存在しない(感覚的には 0 は最初の自然数とでも言えるだろう)。
  • 0が属するある集合について【$n$ がどんな自然数であっても、$n$ が属するなら自然数 $S(n)$ も属する】が成立するなら、その集合にはすべての自然数が属する。

最後の性質は数学的帰納法を利用できると読み替えてもよい。また、自然数の加法はすでに\begin{eqnarray}a+0&=&a \\ a+S(b)&=&S(a+b)\end{eqnarray}と再帰的に定義されており、この定義がよい定義であることと、自然数の加法が以下の性質を満たすことはすでに確かめているものとする。

  • $a+b$ も自然数である
  • (結合律) $(a+b)+c=a+(b+c)$
  • (交換律) $a+b=b+a$
  • (加法の単位元) $a+0=0+a=a$

自然数の乗法では $S(0)$ という自然数が特別な性質を持っているためよく登場するが、これは 0 の次の数であり、つまり普段は 1 と呼ばれている自然数である。

自然数の乗法の定義

自然数の加法を用いて自然数の乗法を次のように定義する。

定義自然数上の二項演算 $\cdot$ を、自然数 $a$, $b$ に対して\[\begin{array}{lcl}a\cdot 0&=&0 \\ a\cdot S(b)&=&a\cdot b + a\end{array}\]と定める。この二項演算を自然数の乗法とよぶ。

この定義がよい定義であることは、加法のときと同様に確かめられる。乗法の演算記号は省略でき、たとえば $a\cdot b$ のことを $ab$ と書いてもよいとする。

乗法の性質

まず乗法において特別な振る舞いをする2つの自然数 $0$ と $S(0)$ の性質を示す。

定理任意の自然数 $a$ に対して\[a\cdot 0 = 0\cdot a = 0\]

(証明) 乗法の定義より $a\cdot 0 = 0$ は明らか。したがって $0\cdot a = 0$ を $a$ についての数学的帰納法で示すことにする。まず $0\cdot 0 = 0$ である。

次に固定した $a$ について成立すると仮定して $S(a)$ についても成立することを示す。\begin{eqnarray}0\cdot S(a) &=& 0\cdot a + 0\\ &=& 0+0 \\&=& 0\end{eqnarray}である。

定理任意の自然数 $a$ に対して\[a\cdot S(0) = S(0)\cdot a = a\]

(証明) 定理のうち $a\cdot S(0) = a$ については、 \begin{eqnarray}a\cdot S(0) &=& a\cdot 0 + a\\ &=& 0+a \\&=& a\end{eqnarray}より成立する。

残りの $S(0)\cdot a = a$ を $a$ についての数学的帰納法で示すことにする。まず $S(0)\cdot 0 = 0$ である。

次に固定した $a$ について成立すると仮定して $S(a)$ についても成立することを示す。\begin{eqnarray}S(0)\cdot S(a) &=& S(0)\cdot a + S(0)\\ &=& a+S(0) \\&=& S(a+0)\\&=& S(a)\end{eqnarray}である。

自然数の乗法は結合律と交換律を満たすが、それらの証明の前に先に乗法が加法に分配することを示す。

定理任意の自然数 $a$, $b$, $c$ に対して\begin{eqnarray}(a+ b)\cdot c&=&a\cdot c + b\cdot c,\\a\cdot(b+c)&=&a\cdot b + a\cdot c.\end{eqnarray}

(証明) $c$ についての数学的帰納法で示す。まず\begin{eqnarray}(a+ b)\cdot 0&=&0\\&=&0+0\\&=&a\cdot 0+b\cdot 0\end{eqnarray}であり\begin{eqnarray}a\cdot(b+0)&=&a\cdot b\\&=&a\cdot b + 0\\&=&a\cdot b+a\cdot 0\end{eqnarray}である。

次に、固定した $c$ について成立すると仮定して $S(c)$ についても成立することを示す。\begin{eqnarray}(a+ b)\cdot S(c)&=&(a+b)\cdot c + (a+b)\\ &=& (ac+bc)+(a+b)\\ &=& (ac+a)+(bc+c)\\ &=& a\cdot S(c) + b\cdot S(c)\end{eqnarray}であり\begin{eqnarray}a\cdot(b+S(c))&=&a\cdot S(b+c)\\&=&a(b+c)+a\\&=&(ab+ac)+a\\&=&ab+(ac+a)\\&=&a\cdot b+a\cdot S(c)\end{eqnarray}である。

分配律を示したので、乗法の結合性と可換性は簡単に示せる。

定理任意の自然数 $a$, $b$, $c$ に対して\[(a\cdot b)\cdot c = a\cdot(b\cdot c).\]

(証明) $c$ についての数学的帰納法で示す。まず\begin{eqnarray}(a\cdot b)\cdot 0 &=& 0\\&=& a\cdot 0\\ &=& a\cdot(b\cdot 0)\end{eqnarray}である。

次に、固定した $c$ について成立すると仮定して $S(c)$ についても成立することを示す。\begin{eqnarray}(a\cdot b)\cdot S(c) &=& (a\cdot b)\cdot c + a\cdot b\\&=&a\cdot (b\cdot c) + a\cdot b \\ &=& a\cdot(b\cdot c + b)\\&=& a\cdot(b\cdot S(c))\end{eqnarray}

定理任意の自然数 $a$, $b$ に対して\[a\cdot b=b\cdot a\]

(証明) $b$ についての数学的帰納法で示す。まず\begin{eqnarray}a\cdot 0 &=& 0\\&=&0\cdot a\end{eqnarray}である。

次に、固定した $b$ について成立すると仮定して $S(b)$ についても成立することを示す。\begin{eqnarray}a\cdot S(b) &=& a\cdot b + a \\&=& b\cdot a + S(0)\cdot a\\ &=& (b+S(0))\cdot a\\ &=& S(b+0)\cdot a\\ &=& S(b)\cdot a\end{eqnarray}である。

乗法を用いて定義される演算と関係

自然数の乗法を定義したことでいくつかの数学的対象が定義できるようになった。それらについて、とりあえず定義だけ挙げていく。それらの性質についての議論は個々の記事で (おそらくいずれ) 行う。

最も簡単なものは冪であろうか。一例としては\begin{eqnarray}a^0 &=& S(0) \\ a^{S(b)} &=& a^b \cdot a\end{eqnarray}のように定義する。この定義方法では $0^0=1$ となっているが、実数に拡張する際に不都合となる場合もあるので、そのときはこれと相反する定義が使われうる。

階乗もほとんど同様に簡単に定義できる。\begin{eqnarray}0! &=& S(0) \\ S(a)! &=& a!\cdot S(a)\end{eqnarray}とする。

大小関係と加法と乗法があれば (余りのある) 除法も定義できる。これについては定義する前に述べなくてはいけないことがたくさんあるので大雑把に結論だけ述べると、方程式\[a=xb+y,\;\;\; 0\leq y \lt b\]に唯一存在する自然数解 $(x,y)$ のうちの $x$ を「$a$ を $b$ で割った商」と呼び、$y$ を「$a$ を $b$ で割った余り」という。

割り切るという関係も定義できる。方程式 $b=ax$ に自然数解 $x$ が存在するときに「$a$ は $b$ を割り切る」といい、$a|b$ と書き表す。これを使うと「$a|b$ であるとき $a$ は $b$ の約数であり、$b$ は $a$ の倍数である」や「2が割り切る自然数のことを偶数とよび、偶数でない自然数を奇数とよぶ」のように約数・倍数・偶数・奇数が定義される。また、そこから公約数や公倍数、最大公約数や最小公倍数も定義される。

数学  2018/05/14  k.izumi