集合論の言葉による有理数の構成

前回は集合論の言葉で整数を構成した。今回はそれを利用して有理数を構成する。集合として有理数を構成することで、有理数も集合論の言葉で利用できるようになる。

はじめに

この記事は本記事シリーズを追っている読者だけでなく、整数集合から有理数を構成する厳密な論理を知りたい者にも役立つように書く。そのため、ラフに学ぶとしているシリーズ内の他の記事と比べて命題や定理の証明が多めになっているが、余力があれば証明も追ってみたり自力で考えたりしてみても面白いだろう。

また、前回の記事の読者向けに断っておくと、この記事では特に記載がある場合を除いて 1, 2 などの数字は整数 ($\boldsymbol{\rm Z}$ に属するモノ) を表すものとし、$+$, $\cdot$ で整数の加法と乗法か有理数の加法と乗法を表すものとする。こうすると、この記事の中で整合性が取れるはずである。

有理数の定義

発想はほとんど前回 (整数の構成) と同じで、2つの整数からなる順序対 $\langle x,y\rangle$ を有理数 $\frac{x}{y}$ と見なそうというものである。こうするとやはり前回同様、$\langle 1,2\rangle$ と $\langle 9,18\rangle$ は外延性の公理より別のモノであるが同じ有理数と見なしたいという問題が起こる。そこで、前回同様「有理数としてみなすと同じ」という関係になるように同値関係を定義し、それによってたとえば $\langle 1,2\rangle$ と同じと見なすとされた順序対による同値類 $[\langle 1,2 \rangle]$ を改めて有理数 $\frac{1}{2}$ と見なす。

定義$\boldsymbol{\rm Z}\times(\boldsymbol{\rm Z}\setminus\{0\})$ 上の同値関係 $Q$ を\[\{\langle\langle x,y \rangle ,\langle x',y' \rangle\rangle\ \mid xy'=yx'\}\]とする。このときの商集合 $\boldsymbol{\rm Z}/Q$ を有理数集合と呼び、$\boldsymbol{\rm Q}$ と書く。有理数集合に属するモノを有理数とよぶ。有理数 $[\langle x,y \rangle]$ のことを $\frac{x}{y}$ とも書く。

有理数の定義に使った二項関係 $Q$ について $\langle x,y \rangle Q\langle x',y' \rangle$ を満たすのは $xy'=yx'$ のときである。たとえば $1\cdot 18=2\cdot 9$ であるから $\langle 1,2 \rangle Q\langle 9,18 \rangle$ である。有理数の割り算を (素朴なレベルで) 知っている立場からすると $xy'=yx'$ は $\frac{x}{y}=\frac{x'}{y'}$ とみることができるのでこの同値関係の作り方は最初に述べた「$\frac{x}{y}$ と見なす」という発想に準じたものだとわかるだろう。

また、有理数の表現方法として分数を正式に導入した。これによって、たとえば $\langle 1,2 \rangle$ の同値類 $[\langle 1,2 \rangle]$ を $\frac{1}{2}$ と表す。そして、\[\langle 1,2 \rangle Q\langle 9,18 \rangle\]より\[[\langle 1,2 \rangle ]=[\langle 9,18 \rangle]\]であるので、分数表現を使えば\[\frac{1}{2}=\frac{9}{18}\]となる。素朴な算数における分数と近いことがわかるので、有理数の表現方法として分数を導入したことは妥当であるといえるだろう。

よく見ると、有理数 $[\langle x,y \rangle]$ を作るときに $y\neq 0$ は許されないような定義になっている (順序対の右の要素についてわざわざ $\boldsymbol{\rm Z}\setminus\{0\}$ としている)。素朴に有理数を知る者なら「分母は0であってはならない」ことをなんとなく知っているので発想としておかしくないとは思うが、本当にこれが必要かと疑問に思う者もいるかもしれない。結論から言うと必要である。二項関係 $Q$ が同値関係であることの証明を以下に示すが、その中で分母 $d$ が0でないことを利用している。ここでは証明はしないが、もし分母に0を許すと $Q$ は推移性を持たなくなるので同値関係ではなくなってしまい、「同値類を用いて……」という議論を展開できなくなってしまう。したがって、分母が0ではないことは必要である。

命題上の有理数の定義に用いた二項関係 $Q$ は同値関係である。

(証明) 同値関係の定義に則って示す。まず $\langle a,b\rangle Q \langle a,b\rangle$ を示す。整数の乗法は可換なので $ab=ba$ であり、よって $\langle a,b\rangle Q \langle a,b\rangle$。

次に $\langle a,b\rangle Q \langle c,d\rangle$ を仮定して $\langle c,d\rangle Q \langle a,b\rangle$ を導く。$\langle a,b\rangle Q \langle c,d\rangle$ より $ad=bc$ であり、このとき $cb=da$ であるから $\langle c,d\rangle Q \langle a,b\rangle$。

最後に $\langle a,b\rangle Q \langle c,d\rangle$,  $\langle c,d\rangle Q \langle e,f\rangle$ を仮定して $\langle a,b\rangle Q \langle e,f\rangle$ を導く。仮定より $ad=bc$, $cf=de$ であるので\begin{eqnarray}d(af)&=&adf\\&=&bcf\\&=&bde\\&=&d(be)\end{eqnarray}である。このことと $d\neq0$ と整数の乗法の単射性より $af=be$。したがって $\langle a,b\rangle Q \langle e,f\rangle$。

有理数の演算の定義

次は整数の加法と乗法を利用して有理数の加法と乗法を定義する。以下に示す定義は、初等的な分数の計算を知っていれば至極妥当であろう。

定義$\boldsymbol{\rm Q}$ 上の二項演算 $f$ を\[f\left(\frac{x}{y}, \frac{x'}{y'}\right)=\frac{xy'+yx'}{yy'} \]と定める。この演算を有理数の加法と呼び、演算子 $+$ を用いて表す。

$\boldsymbol{\rm Q}$ 上の二項演算 $g$ を\[g\left(\frac{x}{y}, \frac{x'}{y'}\right)=\frac{xx'}{yy'}\]と定める。この演算を整数の乗法と呼び、演算子 $\cdot$ を用いて表す。紛らわしくない時は $a\cdot b$ のことを $ab$ と書いてもよいとする。

加法の方は「通分して分母を同じ整数にして、分子同士を足す」こと、乗法の方は「分子同士、分母同士をそれぞれかける」ことをそのまま表現しただけである。定義通りに計算すると、たとえば\begin{eqnarray}\frac{1}{3}+\frac{1}{6}&=&\frac{1\cdot6+3\cdot1}{3\cdot 6}\\&=&\frac{9}{18}\\&=&\frac{1}{2}\end{eqnarray}となる。素朴な算数での式と同じように計算できていることがわかるだろう。

ちなみに、加法と乗法の定義を見るといずれも分母が $yy'$ となっているが、$y\neq 0$, $y'\neq 0$ と 整数環が整域であることから $yy'\neq 0$ であるので演算結果が $\boldsymbol{\rm Q}$ に属さないということは無い。

さて、同値関係の記事でも述べたことだが、同値類の代表元を使って演算を定義しているので、代表元をどのようにとっても演算結果が変わらないことを確かめなくてはならない。

命題上の有理数の加法はよく定義されている。

(証明) $\langle a,b\rangle Q\langle a',b'\rangle$, $\langle c,d\rangle Q\langle c',d'\rangle$ であれば $\frac{ad+bc}{bd}=\frac{a'd'+b'c'}{b'd'}$ であることを示す。

$\langle a,b\rangle Q\langle a',b'\rangle$, $\langle c,d\rangle Q\langle c',d'\rangle$ より\[ab'=ba'\\ cd'=dc'\]である。このとき\begin{eqnarray}(ad+bc)(b'd') &=& ab'dd' + cd'bb'\\&=&ba'dd'+dc'bb'\\&=&(bd)(a'd'+b'c')\end{eqnarray}であるので\[\langle ad+bc,bd\rangle Q\langle a'd'+b'c',b'd'\rangle\]であり、したがって\[\frac{ad+bc}{bd}=\frac{a'd'+b'c'}{b'd'}.\]

命題上の有理数の乗法はよく定義されている。

(証明) $\langle a,b\rangle Q\langle a',b'\rangle$, $\langle c,d\rangle Q\langle c',d'\rangle$ であれば $\frac{ac}{bd}=\frac{a'c'}{b'd'}$ であることを示す。

$\langle a,b\rangle Q\langle a',b'\rangle$, $\langle c,d\rangle Q\langle c',d'\rangle$ より\[ab'=ba'\\ cd'=dc'\]である。このとき\begin{eqnarray}(ac)(b'd') &=& ab'cd'\\&=&ba'dc'\\&=&(bd)(a'c')\end{eqnarray}であるので\[\langle ac,bd\rangle Q\langle a'c',b'd'\rangle\]であり、したがって\[\frac{ac}{bd}=\frac{a'c'}{b'd'}.\]

商体

整数とその加法・乗法が、整域とよばれるための条件を満たしていることは前回説明したとおりである。じつは今回使用した手法は、整域をもとにして割り算もできる代数構造を作る手法として広く知られているものである。そのため、ここでは証明はしないが、この手法でできた有理数とその加法・乗法について、任意の有理数 $a$ に対して

  • 加法と乗法について結合律・交換律・分配律が成立する
  • $a+\frac{0}{1} = \frac{0}{1}+a=a$
  • $a\cdot\frac{1}{1} = \frac{1}{1}\cdot a=a$
  • 加法は可逆である。つまり $a+x=x+a=\frac{0}{1}$ を満たす有理数 $x$ がただ一つ存在する (この $x$ を $-a$ と書く)
  • 乗法は (零倍を除いて) 可逆である。つまり $a\neq\frac{0}{1}$ なら $ax=xa=\frac{1}{1}$ を満たす有理数 $x$ が存在する (この $x$ を $a^{-1}$ と書く)
  • 整数 (もとの整域の元) $n$ と有理数 (商体の元) $\frac{n}{1}$ を (加法と乗法の構造が同じという点で) 同一視できる

などが成立することが知られている。

上の五つによって有理数は四則演算ができることになり、体 (たい) であるための十分条件を満たすので、有理数とその加法・乗法は体である (体であるための十分条件は環であるための十分条件であるので有理数とその加法・乗法は環でもある)。一番下は、前回の記事での整数の一部を自然数と見なせるという話と同様に、有理数の一部\[\left\{\frac{a}{b} \in\boldsymbol{Q}\;\middle|\; b=1\right\}\]とその演算を整数と見なしても、整数とその加法・乗法に期待する性質を持っているということである。注意して欲しいのは、大小関係についてはまだ一言も触れていない点である。そもそも整域であるために大小関係の存在は必要ないので、すべての整域と商体について成り立つ内容を論じているこの節で大小関係について論じることはできない。

有理数の大小関係

ここまでで有理数とその加法・乗法を定義してその性質を述べ、とくに有理数の一部を整数と見なしても加法・乗法が持つべき性質は維持さていることを述べた。しかし、整数のもう一つの重要な性質である大小関係についてはまだ何も述べていない。そこで、有理数の大小関係を定義し、その性質を述べる。

定義$\boldsymbol{\rm Q}$ 上の二項関係 $T$ を\[\left\{ \langle \frac{a}{b},\frac{c}{d}\rangle \;\middle|\; abdd\leq bbcd\right\}\]と定める。この二項関係を有理数の大小関係と呼び、$xTy$ を $x\leq y$ と書く。また、$x\leq y$ かつ $x\neq y$ であることを $x\lt y$ と書く。

つまり $\frac{a}{b}\leq \frac{c}{d}$ であるとは $abdd\leq bbcd$ であるということである。これも代表元を用いて大小を定義しているので、代表元の取り方によって変わらないことを確かめなくてはならない。

命題上の有理数の大小関係はよく定義されている。

(証明) $\langle a,b\rangle Q\langle a',b'\rangle$, $\langle c,d\rangle Q\langle c',d'\rangle$ であるとき $\frac{a}{b}\leq\frac{c}{d}$ であれば $\frac{a'}{b'}\leq\frac{c'}{d'}$ であることを示す。

$\langle a,b\rangle Q\langle a',b'\rangle$, $\langle c,d\rangle Q\langle c',d'\rangle$ より\[ab'=ba'\\ cd'=dc'\]であり、$\frac{a}{b}\leq\frac{c}{d}$ より\[abdd\leq bbcd.\]ここで $0\leq a'a'c'c'$ であるので\[a'a'c'c'abdd\leq a'a'c'c'bbcd\] である。よって、\begin{eqnarray}aacca'b'd'd' &=& (aa')(ab')(cd')(cd')\\&=&(aa')(ba')(dc')(dc')\\ &=& a'a'c'c'abdd \\ &\leq& a'a'c'c'bbcd\\&=& (ba')(ba')(cc')(dc')\\&=&(ab')(ab')(cc')(cd')\\&=&aaccb'b'c'd'\end{eqnarray}である。ここで得られた不等式と $0\leq aacc$ より\[a'b'd'd'\leq b'b'c'd'\]であるので $\frac{a'}{b'}\leq\frac{c'}{d'}$。

ここで、大小の定義について $abdd\leq bbcd$ ではなく $ad\leq bc$ でよいのではないかと思うかもしれない。実際、素朴な有理数の引き算を知っていれば $\frac{a}{b}-\frac{c}{d}=\frac{ad-bc}{bd}$ なのだから、分子が正か負かで大小が判断できそうだという考え方が出来そうである。ただ、これは $bd$ が正でないと成立しない。現に素朴な理解でも $\frac{a}{b}\leq \frac{c}{d}$ の両辺に $bd$ をかけるとき、$bd$ が負だと不等号の向きが変わって $ad\geq bc$ となる。したがって、$ad\leq bc$ ならいつでも $\frac{a}{b}\leq \frac{c}{d}$ と決められた大小関係は素朴に想像する大小関係とは異なる (そしてこの誤った大小関係は加法や乗法によって保存されないだろう)。そこで、負かもしれない $bd$ ではなく、常に正である $bbdd$ をかけることにしたのである。そうすると、素朴な計算では $\frac{a}{b}\leq \frac{c}{d}$ から ($b$, $d$ の値によらず) $abdd\leq bbcd$ が得られて、上述のような定義をするという発想に至る。

命題有理数の大小関係は全順序関係である。

(証明) 全順序関係の定義に則って証明する。まず $\frac{a}{b}\leq \frac{a}{b}$ を示す。整数の大小関係の反射性より $abbb=abbb$ である。したがって $\frac{a}{b}\leq \frac{a}{b}$。

次に $\frac{a}{b}\leq \frac{c}{d}$, $\frac{c}{d}\leq \frac{e}{f}$ を仮定して $\frac{a}{b}\leq \frac{e}{f}$ を導く。仮定より $abdd\leq bbcd$, $cdff\leq ddef$。ここで非負整数倍は整数の大小関係を保存するので $0\leq ff$ より\[abddff\leq bbcdff\]であり、$0\leq bb$ より\[bbcdff\leq bbddef\]である。したがって整数の大小関係の推移性より\[abddff\leq bbddef\]であり、$0\leq dd$ より\[abff\leq bbef\] であるから $\frac{a}{b}\leq \frac{e}{f}$。

次に $\frac{a}{b}\leq \frac{c}{d}$, $\frac{c}{d}\leq \frac{a}{b}$ を仮定して $\frac{a}{b}=\frac{c}{d}$ を導く。仮定より $abdd\leq bbcd$, $cdbb\leq ddab$。したがって整数の大小関係の反対称性より $abdd=bbcd$。ここで整数の乗法の単射性より $ad=bc$ であるので $\frac{a}{b}=\frac{c}{d}$。

最後に $\frac{a}{b}\leq \frac{c}{d}$ か $\frac{c}{d}\leq \frac{a}{b}$ の少なくとも一方が成立することを示す。整数の大小関係の全順序性より $abdd\leq bbcd$ か $bbcd\leq abdd$ の少なくとも一方は成立する。$abdd\leq bbcd$ であるとき $\frac{a}{b}\leq \frac{c}{d}$ であり、$bbcd\leq abdd$ であるとき $\frac{c}{d}\leq \frac{a}{b}$ であるので、いずれにしても $\frac{a}{b}\leq \frac{c}{d}$ か $\frac{c}{d}\leq \frac{a}{b}$ の少なくとも一方は満たされる。

整数のときと同様に、有理数についても正や負を考えることができる。そして、後に示すが有理数 $\frac{a}{1}$ の正負とこれを整数 $a$ と見なしたときの正負は一致する。

定義$\boldsymbol{\rm Q}$ の部分集合\[\boldsymbol{\rm Q}^+=\left\{x\in\boldsymbol{\rm Q} \;\middle|\; \frac{0}{1}\lt x\right\}\]に属する有理数はであり、$\boldsymbol{\rm Q}$ の部分集合\[\boldsymbol{\rm Q}^-=\left\{x\in\boldsymbol{\rm Q} \;\middle|\; x\lt \frac{0}{1}\right\}\]に属する有理数はである。

命題すべての有理数は $\boldsymbol{\rm Q}^-$, $\{\frac{0}{1}\}$, $\boldsymbol{\rm Q}^+$ のいずれか一つのみに属する。

(証明) 有理数の大小関係は全順序であるから、いかなる有理数 $x$ に対しても、$x\lt \frac{0}{1}$, $x=\frac{0}{1}$, $\frac{0}{1}\lt x$ のいずれか一つのみが成立する。

有理数の大小関係の性質

有理数の演算と大小関係について、以下の重要な性質が成立する。

命題任意の有理数 $x$, $y$, $z$ に対して

  1. $x\leq y$ ならば $x+z\leq y+z$
  2. $\frac{0}{1}\leq x$, $\frac{0}{1}\leq y$ ならば $\frac{0}{1}\leq xy$

(証明) $x=\frac{a}{b}$, $y=\frac{c}{d}$, $z=\frac{e}{f}$ とする。まず 1 を示す。$x\leq y$ より $abdd\leq bbcd$。ここで非負整数倍は整数の大小関係を保存するので $0\leq ff$ より\[abddff\leq bbcdff.\]整数の加法は大小関係を保存するので\[abddff+bbddef\leq bbcdff+bbddef\]であり、よって\[(af+be)bfdd\leq bb(cf+de)df.\]さらに $0\leq ff$ より\[(af+be)bfdfdf\leq bfbf(cf+de)df\]であるから\[\frac{af+be}{bf}\leq \frac{cf+de}{df}\]であり、よって\[x+z=\frac{a}{b}+\frac{e}{f}\leq\frac{c}{d}+\frac{e}{f}=y+z.\]

2 を示す。仮定より $0\leq ab$, $0\leq cd$ であるので、整数の大小関係に性質より $0\leq abcd=acbd$。したがって\[\frac{0}{1}\leq \frac{ac}{bd}=\frac{a}{b}\cdot\frac{c}{d}=xy.\]

ここで確認した性質は、前回の記事で整数環が順序環であることの根拠としたものと同じである。それと同様に、上の定理より有理数体も順序環である。順序環であるような体は順序体と呼ばれるので、有理数体は順序体である。したがって、証明は別の記事に任せるが、順序環についての初等的な結論として、絶対値写像\[|x|=\left\{\begin{array}{ll} x & \text{if $x\in\boldsymbol{\rm Q}^+$} \\ \frac{0}{1} &  \text{if $x=\frac{0}{1}$} \\ -x & \text{if $x\in\boldsymbol{\rm Q}^-$} \end{array}\right.\]を定義することができ、任意の有理数 $x$, $y$, $z$, $w$ に対して

  • $x\leq y$, $z\leq w$ ならば $x+z\leq y+w$
  • $x\leq y$, $\frac{0}{1}\leq z$ ならば $xz\leq yz$
  • $x\leq y$, $z\leq \frac{0}{1}$ ならば $yz\leq xz$
  • $\frac{0}{1}\leq x\leq y$, $\frac{0}{1}\leq z\leq w$ ならば $xz\leq yw$
  • $|x||y|=|xy|$
  • $|x^{-1}|=|x|^{-1}$
  • $\frac{0}{1}\leq x\cdot x$
  • $\left|\frac{a}{b}\right|=\frac{|a|}{|b|}$
  • 有理数は稠密であり、つまり $x\lt y$ であれば、$x<\xi<y$ を満たす有理数 $\xi$ が存在する
などが成立することがわかる。

有理数の一部としての整数

さて、上でも少し述べたし、有理数を算数で学んでいればわかりきったことかもしれないが、有理数の一部\[\boldsymbol{\rm Z}'=\left\{\frac{a}{b} \in \boldsymbol{Q} \;\middle|\; b=1 \right\}\]を整数と見なすことができる。そのためには写像\[i:\boldsymbol{\rm Z}\to\boldsymbol{\rm Z}';\;a\to\frac{a}{1}\]を考えればよい。この写像 $i$ は全単射になっており、任意の $a$, $b\in\boldsymbol{\rm Z}$ に対して\begin{eqnarray}i(a)+i(b)&=&i(a+b)\\i(1)&=&\frac{1}{1}\\ i(a)\cdot i(b)&=&i(ab)\end{eqnarray}を満たしている。このような性質を持つので、環論の言葉では全単射 $i$ は環同型であるといい、環同型の存在は、始域の代数構造と終域の代数構造が一致することを意味する。このことから整数 $a$, $b$ の加法 $a+b$ を有理数の足し算 $\frac{a}{1}+\frac{b}{1}$ に置き換えても全く同じ議論ができ、乗法についても同様である。

また、順序構造についても整数 $a$, $b$ について $a\leq b$ であれば $i(a)\leq i(b)$ でありその逆も成立するので一致している。以上のことから、有理数の一部 $\boldsymbol{\rm Z}'$ と有理数の演算・大小を整数と呼んでも、$\boldsymbol{\rm Z}$ とその演算・大小を整数と呼んでも、整数の議論に差し支えない。また、旧整数集合に与えていた文字を没収して、有理数集合の一部を $\boldsymbol{\rm Z}$ と書くことにしても問題ない。代数的な性質が一致すれば、どの集合を整数とよぼうが、代数的な議論には全く影響しないのである。

また、次の記事では実数を構成するのだが、その実数の一部は有理数と同じ演算・大小関係の構造を有するので、実数の構造の一部が整数の構造にも一致することになり、この実数の一部を整数と呼んでもやはり問題ない。