準備編のまとめ

ここでは準備編の最終回および実践編の初回として、集合論の言葉 (ZFC集合論) でできることについておさらいする。とくに、準備編でどのようなモノ (集合) の存在が示されたかについて述べていく。

はじめに

実践編では、中学・高校数学で扱われる様々な分野を集合の言葉で表現していく。そうすることの目的は準備編の最初で説明しているので、そちらも合わせて読んでいただきたい。

集合論の言葉でいろいろ表現しようと思ったら、まずは集合論の言葉で何を使えるかを知らねばならないだろう。そういったものは準備編で順を追って解説しているので、ここではざっくりとおさらいしていく。適宜準備編へのリンクを張るので、詳しくはそちらを参照。

モノ同士の関係

これから先、我々の集合論の論理に出てくるモノのことを集合とよぶ。つまりモノとして扱いたいものはすべて集合として定義する (準備編で様々なモノをそのように定義してきた)。モノ (つまり集合) 同士には以下の関係がある。

まず $\in$ で表される関係である。$x\in y$ は「$x$ が $y$ に属する」と訳すことにする (準備編)。どんなモノ同士も $x\in y$ か $x\not\in y$ の一方のみが成立する。$y$ に属するモノのことを『$y$ の要素』とよぶ。

この『属する』という関係が集合を特徴づける。その最たる例として、どういうときに『等しい』というのかも『属する』をもとに定められていて、一方にしか属さないモノが存在しない集合同士は等しいと定められている (準備編)。たとえば「$a$ と $b$ が属し、それ以外が属さない集合」$A$ と「$b$ と $a$ が属し、それ以外が属さない集合」$B$ があるとすると、一方のみに属するモノが存在しないので、これらは等しい ($A=B$)。言い換えれば、何が属して何が属さないかをすべて指定すればただ一つの集合を指定することができる。裏を返せば、「$a$ が属する集合」のように属するか属さないか指定されていないモノがあると、これではただ一つの集合に絞りむことはできない (現に上で挙げた $A$ や $B$ もあてはまるし「$a$ だけが属する集合」$C$ もあてはまる)。

もう一つ、集合同士の関係として $\subset$ で表される包含関係がある (準備編)。$x\subset y$ は「$x$ に属するモノがすべて $y$ にも属する」ことを表し、これが成立するとき $y$ は $x$ の部分集合であるともいう。たとえば上で挙げた $C$ に属するモノは $a$ しかないが、これは $A$ に属しているので $C\subset A$ であり、$C$ は $A$ の部分集合ということになる。もし $x\subset y$, $y\subset x$ の両方が成立すれば、$x$ と $y$ の一方にしか属さないモノが存在しえないので $x=y$ ということになる。

もろもろの集合

以下に列挙する集合が存在する。

  • (空集合) 「何も属さない集合」である空集合 $\emptyset$ が存在する。
  • (外延的記法) 有限個の集合 $a,b,\dots,\xi$ がそれぞれ存在するとき、「それらがすべて属し、それ以外が属さない集合」である $\{a,b,\dots,\xi\}$ が存在する。
  • (内包的記法) 集合 $x$ が存在するとき、「$x$ に属するモノのうち条件 $\psi$ を満たすものがすべて属し、それ以外が属さない集合」である $\{y\in x \mid \psi(y)\}$ が存在する。
  • (和集合) 集合 $x$ が存在するとき、「$x$ に属するいずれかの集合に属するモノがすべて属し、それ以外が属さない集合」である $\bigcup x$ が存在する。また $\bigcup\{y,z\}$ のことは $y\cup z$ とも書く。
  • (共通部分) 空でない集合 $x$ が存在するとき、「$x$ に属するすべての集合に属するモノがすべて属し、それ以外が属さない集合」である $\bigcap x$ が存在する。また $\bigcap\{y,z\}$ のことは $y\cap z$ とも書く。

基本的には高校数学の集合の単元で扱う内容通りだが、内包的記法ではすでに存在が確定している集合 $x$ の部分集合しか作れないことに注意が必要である。この制約は素朴な集合論がもつ矛盾を回避するために重要である。

ただ、ここで課したい制約はそれだけなので、たとえば後に説明する実数集合 $\boldsymbol{\rm R}$ を用いた\[\{a+b \mid a\in\boldsymbol{\rm R}, b\in\boldsymbol{\rm R} \}\]という表現は許される ($a$, $b$ が実数なら $a+b$ は $\boldsymbol{\rm R}$ に属するので、この集合は $\boldsymbol{\rm R}$ の部分集合である)。例外っぽく見えて気に入らないかもしれないが、この集合は\[\{x\in\boldsymbol{\rm R}\mid \exists a\exists b[a\in\boldsymbol{\rm R} \land b\in\boldsymbol{\rm R}\land x=a+b]\} \]と正式な書き方に直せるので、決して集合の存在に関するルールに例外を設けたわけではない。わかりやすくするためだけの処置である。

数 (実数の系統)

実数が存在し、これは中学数学・高校数学で扱われる実数と同じである (準備編)。また、「実数がすべて属し、それ以外が属さない集合」である $\boldsymbol{\rm R}$ が存在する。そして、その部分集合として以下に列挙する集合も存在する。

  • 実数がすべて属し、それ以外が属さない集合 $\boldsymbol{\rm R}$
  • 実数のうち有理数である数がすべて属し、それ以外が属さない集合 $\boldsymbol{\rm Q}$
  • 実数のうち整数である数がすべて属し、それ以外が属さない集合 $\boldsymbol{\rm Z}$
  • 実数のうち自然数 (0を含む) である数がすべて属し、それ以外が属さない集合 $\boldsymbol{\rm N}$

また、実数同士の加法と乗法と大小関係が存在し、これらも中学・高校数学で扱ったものと同じである。そのため、たとえば結合則・交換則・分配則が成立し、有理数同士の和や積は有理数であるといった、中学数学で習う性質は健在である。

数 (順序数の系統)

上で挙げた自然数集合 $\boldsymbol{\rm N}$ とは別に、自然数集合と呼ぶのにふさわしい集合 $\omega$ が存在する (準備編)。記事によっては $\omega$ に属するモノの方を『自然数』とよび、その場合は\[\begin{array}{rclcl} 0 &=& \emptyset \\ 1&=& 0\cup\{0\} &=& \{0\}\\ 2 &=& 1\cup\{1\} &=& \{0,1\}\\ 3 &=& 2\cup\{2\} &=& \{0,1,2\}\\ & \vdots &&&\\ \text{$n$ の次の数} &=& n\cup\{n\}&& \end{array}\]となる。こちらを自然数と呼ぶことにしても、中学数学で自然数の性質として習うすべてのことは成立する。

写像・関数・数列・組

集合 $x$, $y$ が存在すれば、「$x$ に属するモノ1つに対して、$y$ に属するモノがちょうど1つ対応する」写像が存在する (準備編)。$f$ がそのような写像であることを $f:x\to y$ と表し、$f$ を「$x$ から $y$ への写像」とよぶ。このとき $f$ によって $x$ に属するモノ $a$ に対して $y$ に属するモノが1つ定まるが、その定まったモノを $f(a)$ と書く。$\boldsymbol{\rm R}$ やその部分集合から $\boldsymbol{\rm R}$ やその部分集合への写像のことは関数とよぶことが多い。

「$x$ から $y$ への写像がすべて属し、それ以外のモノが属さない集合」である $\text{Map}(x,y)$ も存在する。この集合のことを $y^x$ と書いてもよい。

写像の中には特殊な扱われ方をするものある。$\omega$ や $\boldsymbol{\rm N}$ から $x$ への写像は『無限数列』と呼ばれ、$n\in\omega$ または $n\in\boldsymbol{\rm N}$ とすると、$n$ から $x$ への写像は『有限数列』や『組』と呼ばれる (準備編)。この場合、$f(i)$ のことを $f_i$ と書き、写像自体を\[(f_0,f_1,\dots,f_{n-1})\]のように写像 $f$ によって対応する $x$ の要素を順に並べて表現することもある。

すなわち、たとえば $\boldsymbol{\rm R}^2$ は「$\{0,1\}$ から $\boldsymbol{\rm R}$ への写像がすべて属し、それ以外のモノが属さない集合」であるが、数列という言葉を使えば「長さが2の実数列がすべて属し、それ以外のモノが属さない集合」ととらえることもできる。さらに、長さが2の実数列は $(a_0,a_1)$ のように表現できるので内包的記法で書けば (直感的にではあるが)\[\boldsymbol{\rm R}^2=\{(a_0,a_1) \mid a_0\in\boldsymbol{\rm R}, a_1\in\boldsymbol{\rm R}\}\]と書ける。

おわりに

以上で、集合論の言葉で数や写像やその他の集合を扱う準備ができた。これで実践編に取り掛かることができるだろう。もし他に必要なことがあれば、そのつど軽く説明して準備編へのリンクを載せることとする。