順序体

体 (たい) とは端的には四則演算を伴った代数構造のことであり、順序体とはその四則演算に両立する大小関係を伴った体のことである。身近なものだと実数体や有理数体があてはまるが、それ以外にも順序体は存在する。この記事では、順序体に共通する初等的な性質を証明していく。

定義

定義$K$ を集合とし、$0$ と $1$ を $K$ の要素とし、$+$ と $\cdot$ を $K$ 上の二項演算とする。以下のすべてを満たすとき、$(K,+,\cdot,0,1)$ はである; 任意の $a,b,c\in K$ に対して

  • $a+b\in K$, $a\cdot b\in K$
  • (結合律) $(a+b)+c=a+(b+c)$
  • (結合律) $(a\cdot b)\cdot c=a\cdot(b\cdot c)$
  • (交換律) $a+b=b+a$
  • (交換律) $a\cdot b=b\cdot a$
  • (分配律) $a(b+c)=ab+ac$, $(a+b)c=ac+bc$
  • (単位元の存在) $a+0=0+a=a$
  • (単位元の存在) $a\cdot 1=1\cdot a=a$
  • (逆元の存在) ある $x\in K$ が存在して $a+x=x+a=0$
  • (逆元の存在) $a\neq0$ならば、ある $x\in K$ が存在して $ax=xa=1$

体はよく四則演算ができる代数構造と説明され、体について成立することはいろいろ知られている。以下に述べる順序体も体であるので、体に対して成立することは順序体についても成立する。

定義$(K,+,\cdot,0,1)$ を体とし、$\leq$ を $K$ 上の二項関係とする。以下のすべてを満たすとき、$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ は順序体である; 任意の $a,b,c\in K$ に対して

  • (反射律) $a\leq a$
  • (推移律) $a\leq b$, $b\leq c$ ならば $a\leq c$
  • (反対称律) $a\leq b$, $b\leq a$ ならば $a=b$
  • (全順序律) $a\leq b$ または $b\leq a$
  • $a\leq b$ ならば $a+c\leq b+c$
  • $0\leq a$, $0\leq b$ ならば $0\leq ab$

このうち反射律・推移律・反対称律・全順序律を満たす二項関係は全順序関係と呼ばれる。つまり順序体の二項関係 $\leq$ は全順序関係である。そして、全順序関係が下の2つの条件を満たすことを「順序が演算と両立する」と表現する。つまり、順序体とは演算と両立する全順序を伴った体のことである。

体であるための条件のうち乗法の逆元の存在以外を満たす $(K,+,\cdot,0,1)$ は環と呼ばれ、これに上の条件を満たす二項関係 $\leq$ を付与したものは順序環と呼ばれる。そのため、以降に示す命題のうち乗法の逆元の存在に依存していないものは順序環についても成立する。また、体は環であるための条件をすべて満たすことになるので体は環でもあり、同様に順序体は順序環でもある。つまり他の記事で「任意の環について~」や「任意の順序環について~」と書いてあることは順序体についても成立する。

順序体の例としては以下が挙げられる。

  • 有理数とその通常の加法・乗法・大小関係
  • 実数とその通常の加法・乗法・大小関係
  • 超実数とその通常の加法・乗法・大小関係

また、順序環の例としては整数環が挙げられる。

演算と順序の両立

順序体の定義の中で順序が演算に両立することが要求されることをすでに確認した。そのときに『演算との両立』を銘打っている割には条件が少なすぎると感じた者もいるのではないだろうか。しかし、実は上に述べた条件だけで、順序体 $(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ に対して以下に列挙する命題を導くことができ、まさに順序が演算に両立している。

命題$a\leq b$, $c\leq d$ ならば $a+c\leq b+d$。

(証明) $a\leq b$ であるとき順序体の定義より $a+c\leq b+c$。また $c\leq d$ より同様に $b+c\leq b+d$。以上のことと推移性より $a+c\leq b+d$。

命題$0\lt a$, $0\lt b$ ならば $0\lt ab$

(証明) 体は整域だから $0\neq a$, $0\neq b$ ならば $0\neq ab$ である。

命題\[0\leq a \Leftrightarrow -a\leq 0 \\ 0\lt a \Leftrightarrow -a\lt 0\]

(証明) まず上を示す。$0\leq a$ であるとき $0+(-a)\leq a+(-a)$ だから $-a\leq 0$。

$-a\leq 0$ であるとき $-a+a\leq 0+a$ だから $0\leq a$。

$0=a$ と $0=-a$ は同値だから下も成立する。

命題\[a\leq b \Leftrightarrow -b\leq -a \\ a\lt b \Leftrightarrow -b\lt -a\]

(証明) まず上を示す。$a\leq b$ であるとき $a+(-(a+b))\leq b+(-(a+b))$ だから $-b\leq -a$。

$-b\leq -a$ であるとき $-b+(a+b)\leq -a+(a+b)$ だから $a\leq b$。

$a=b$ と $-b=-a$ は同値だから下も成立する。

命題$a\leq0$, $b\leq0$ ならば $0\leq ab$

(証明) $a\leq 0$, $b\leq 0$ であるとき、命題より $0\leq-a$, $0\leq-b$。このとき $0\leq(-a)(-b)$ となるので $0\leq ab$。

命題$0\leq a$, $b\leq0$ ならば $ab\leq 0$

(証明) $0\leq a$, $b\leq 0$ とすると、命題より $0\leq a$, $0\leq-b$。このとき $0\leq a(-b)$ となるので $0\leq -ab$。したがって命題より $ab\leq 0$。

命題平方数は 0 より大きい。つまり $0\leq a^2$。

(証明) 全順序率より $0\leq a$ または $a\leq 0$。もし $0\leq a$ であれば順序体の定義より $0\leq a^2$ であり、もし $a\leq 0$ であれば命題より $0\leq a^2$。いずれにしても $0\leq a^2$。

命題\[0\lt a \Leftrightarrow 0\lt a^{-1}\]

(証明) まず右方向を背理法で導く。$0\lt a$ かつ $0\not\lt a^{-1}$ と仮定すると全順序律と $a^{-1}\neq 0$ より $0\lt a$, $a^{-1}\lt 0$。このとき命題より $0\lt a$, $0\lt -a^{-1}$ だから $0\lt a\cdot(-a^{-1})$ となるので $0\lt -1$。このとき命題より $1\lt 0$ となって命題に矛盾するので $0\lt a$ なら $0\lt a^{-1}$。

次に左方向を示す。$0\lt a^{-1}$ とすると、右方向より $0\lt(a^{-1})^{-1}$ であるから $0\lt a$。

命題\[0\lt a\lt b \Leftrightarrow 0\lt b^{-1}\lt a^{-1}\]

(証明) まず右方向を導く。$0\lt a$, $0\lt b$ であるので命題より $0\lt a^{-1}$, $0\lt b^{-1}$ であり、このとき命題より $0\lt a^{-1}b^{-1}$。これと $a\lt b$ より $a(a^{-1}b^{-1})\lt b(a^{-1}b^{-1})$ であるから $b^{-1}\lt a^{-1}$。

次に左方向を示す。$0\lt b^{-1}\lt a^{-1}$ とすると、右方向より $0\lt (a^{-1})^{-1}\lt (b^{-1})^{-1}$ であるから $0\lt a\lt b$。

命題$a\leq b$, $c\leq 0$ ならば $bc\leq ac$

(証明) $c\leq 0$ だから命題より $0\leq -c$。また、$a\leq b$ だから $a+(-a)\leq b+(-a)$ であるので $0\leq b-a$。以上より $0\leq (b-a)(-c)$ だから $0\leq ac-bc$。したがって $0+bc\leq ac-bc+bc$ だから $bc\leq ac$。

命題$A\subset K$, $B\subset K$ とする。$A$ にも $B$ にも最大値があるなら\[A+B=\{a+b\mid a\in A,b\in B\}\]にも最大値が存在して\[\max(A+B)=\max A + \max B.\]

(証明) $\max A\in A$, $\max B\in B$ であり、任意の $a\in A$, $b\in B$ に対して $a\leq \max A$, $b\leq\max B$ であり、命題より $a+b\leq\max A + \max B$。

ここで $\max A + \max B\in(A+B)$ であり、上で確認したことより任意の $a+b\in(A+B)$ に対して $a+b\leq\max A + \max B$ であるから、$\max A + \max B$ は $A+B$ の最大値である。

正と負

実数を正の実数と負の実数 (と 0) に分けられることは中学数学でも習う通りだが、一般の順序体についてもほぼ同様に正と負を考えることができる。ここでは正の数と0の集合にあたる正錐を先に定義し、その要素のうち 0 でないものを正の数と呼ぶことにしている。

定義$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ を順序体とする。$K$ の部分集合\[P=\{x\in K\mid 0\leq x\}\]を順序体 $K$ の正錐とよぶ。正錐の要素であり 0 でないものはである。また\[-P=\{-x\in K\mid x\in P\}\]の要素であり 0 でないものはである。

定理$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ を順序体とし、$0\neq 1$ とし、$P$ をその正錐とする。このとき

  • $a\in P$, $b\in P$ ならば $a+b\in P$, $ab\in P$
  • $a\in K$ ならば $a^2\in P$
  • $-1\not\in P$
  • $K=P\cup(-P)$

(証明) $a\in P$, $b\in P$ であるとき $0\leq a$, $0\leq b$ である。このとき、順序は演算と両立するので $0\leq a+b$, $0\leq ab$。よって $a+b\in P$, $ab\in P$。

$a\in K$ であるとき $0\leq a^2$ であり、よって $a^2\in P$。

$0\lt 1$ である。したがって $-1=0+(-1)\lt 1+(-1)=0$ であり、よって $-1\not\in P$。

$P\cup(-P)\subset K$ は明らかだから $K\subset P\cup(-P)$ を示す。全順序律より任意の $a\in K$ について $0\leq a$ または $a\leq 0$。もし $0\leq a$ なら $a\in P$ であり、もし $a\leq 0$ なら命題より $0\leq -a$ であるから $-a\in P$ となり $a=-(-a)\in -P$。いずれにしても $a\in P\cup(-P)$ である。

実は、正錐は順序体を特徴づける。つまり、体 $(K,+,\cdot,0,1)$ に対して正錐として適当な集合を用意すれば、それを正錐として持つような順序体 $(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ がただ一つ定まる。それを述べたのが以下の定理である。

定理$(K,+,\cdot,0,1)$ を体とする。$K$ の部分集合 $P$ が

  • $a\in P$, $b\in P$ ならば $a+b\in P$, $ab\in P$
  • $a\in K$ ならば $a^2\in P$
  • $-1\not\in P$
  • $K=P\cup(-P)$
を満たすとき、$(K,+,\cdot, \leq, 0,1)$ が順序体となり $P$ がその正錐となる $K$ 上の二項関係 $\leq$ が一意に存在する。

(証明) まず存在から示す。$K$ 上の二項関係 $\leq$ を\[a\leq b\Leftrightarrow b-a\in P\]と定義し、これが要求される二項関係であることを示す。

上で定義した二項関係 $\leq$ が全順序関係であることを示す。$a-a=0=0^2\in P$ より $a\leq a$。$a\leq b$, $b\leq c$ とすると $b-a\in P$, $c-b\in P$ であり、このとき $c-a=(c-b)+(b-a)\in P$ となるから $a\leq c$。$a\leq b$, $b\leq a$ とすると $b-a\in P$, $a-b\in P$ であり、このとき $a\neq b$ と仮定すると $(b-a)^{-1}$ が存在するが、もし $(b-a)^{-1}\in P$ なら $-1=(a-b)(b-a)^{-1}\in P$ となり矛盾し、もし $(b-a)^{-1}\not\in P$ なら $-(b-a)^{-1}\in P$ だから $-1=(b-a)(-(b-a)^{-1})\in P$ となりやはり矛盾するので、$a=b$。$a\not\leq b$ とすると $b-a\not\in P$ だから $b-a\in-P$ となるので $a-b=-(b-a)\in P$ であり、このとき $b\leq a$ となるので、$a\leq b$ か $b\leq a$ の少なくとも一方が満たされる。

上で定義した全順序関係 $\leq$ が演算と両立することを示す。$a\leq b$ とすると $(b+c)-(a+c)=b-a\in P$ であるから $a+c\leq b+c$。$0\leq a$, $0\leq b$ とすると $a=a-0\in P$, $b=b-0\in P$ であるから $ab\in P$。

以上より $(K,+,\cdot, \leq, 0,1)$ は順序体となるが、その正錐が $P$ であることを示す。$0\leq a$ であるとき $a=a-0\in P$。$a\in P$ であるとき $a-0=a\in P$ だから $0\leq a$。したがって $P$ は正錐である。

次に一意であることを示す。つまり、要求される条件を仮定すると上で定義した二項関係が導かれることを示す。$a\leq b$ とすると二項関係 $\leq$ は演算と両立するから $0=a+(-a)\leq b+(-a)=b-a$ であり、$P$ は正錐だから $b-a\in P$。逆に $b-a\in P$ とすると $P$ は正錐だから $0\leq b-a$ であり、二項演算 $\leq$ は演算と両立するから $a=0+a\leq b-a+a=b$。以上より二項関係 $\leq$ は上で定義されたものと一致する。

絶対値

順序体については実数のそれと同様に絶対値を定義することができ、様々な性質を持つ。

定義$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ を順序体とする。このとき $K$ 上の単項演算 $|\cdot|$ を\[|x|=\left\{\begin{array}{ll} x & \text{if $x\geq 0$}\\ -x & \text{if $x\lt 0$} \end{array}\right.\]と定め、この演算による値 $|x|$ を $x$ の絶対値とよぶ。

この絶対値について、実数の絶対値として知られているものと同様に以下のことが成立する。

命題$|a|=\max\{a,-a\}$。

(証明) 全順序律より $0\leq a$ または $a\lt 0$。$0\leq a$ であるとき絶対値の定義より $|a|=a$ であり、命題よりわかる $-a\leq 0$ と推移律より $-a\leq a$ であるので $\max\{a,-a\}=a$。したがって $|a|=\max\{a,-a\}$。

$a\lt 0$ であるとき絶対値の定義より $|a|=-a$ であり、命題よりわかる $0\leq -a$ と推移律より $a\leq -a$ であるので $\max\{a,-a\}=-a$。したがって $|a|=\max\{a,-a\}$。

いずれにしても $|a|=\max\{a,-a\}$。

命題$0\leq |a|$。

(証明) 全順序律より $0\leq a$ または $a\lt 0$。$0\leq a$ であるとき絶対値の定義より $|a|=a$ であるから $0\leq |a|$。$a\lt 0$ であるとき絶対値の定義より $|a|=-a$ であり命題より $0\leq -a$ であるので、$0\leq|a|$。いずれにしても $0\leq|a|$ である。

命題$|a|=0$ となるのは $a=0$ であるときに限る。

(証明) 絶対値の定義より $|a|=a$ と $|a|=-a$ のいずれかか成立するので、$|a|=0$ となるのは $a=0$ のときか $-a=0$ のときのいずれかに限られる。$-a=0$ のときは $a=-(-a)=-0=0$ だからいずれにしても $a=0$ である。

命題$|-a|=|a|$。

(証明) 全順序律より $0\leq a$ または $a\leq 0$。$0\leq a$ であるとき命題より $-a\leq 0$ であるので $|a|=a$, $|-a|=-(-a)=a$ であり、したがって $|-a|=|a|$。$a\leq 0$ であるとき命題より $0\leq -a$ であるので $|a|=-a$, $|-a|=-a$ であり、したがって $|-a|=|a|$。いずれにしても $|-a|=|a|$。

命題$|a+b|\leq|a|+|b|$。

(証明) 命題より $|a|=\max\{a,-a\}$, $|b|=\max\{b,-b\}$ であるので、命題より\[|a|+|b| = \max\{a+b, a-b, b-a, -(a+b)\}\]である。一方で命題より\[|a+b|=\max\{a+b,-(a+b)\}\]であるので $|a+b|\in \{a+b, a-b, b-a, -(a+b)\}$ であるから\[|a+b|\leq \max\{a+b, a-b, b-a, -(a+b)\}=|a|+|b|.\]

命題$|a||b|=|ab|$。

(証明) 全順序律より $0\leq a$ または $a\lt 0$ であり $0\leq b$ または $b\lt 0$。$0\leq a$, $0\leq b$ であるとき順序体の定義より $0\leq ab$ であり絶対値の定義より $|a|=a$, $|b|=b$, $|ab|=ab$ であるから $|a||b|=ab=|ab|$。

$a\lt 0$, $0\leq b$ であるとき命題より $ab\leq 0$ であり絶対値の定義より $|a|=-a$, $|b|=b$, $|ab|=-ab$ であるから $|a||b|=-ab=|ab|$。

$a\leq b$, $b\lt 0$ であるときも同様である。

$a\lt 0$, $b\lt 0$ であるとき命題より $0\leq ab$ であり絶対値の定義より $|a|=-a$, $|b|=-b$, $|ab|=ab$ であるから $|a||b|=(-a)(-b)=ab=|ab|$。

いずれにしても $|a||b|=|ab|$ である。

命題任意の $a,b\in K$ に対して $||a||=|a|$。

(証明) 絶対値の非負性より $0\leq|a|$。したがって絶対値の定義より $||a||=|a|$。

命題$|a^{-1}|=|a|^{-1}$。

(証明) $|a||a^{-1}|=1$ であることさえ確かめれば、乗法の結合律と、逆元の一意性より $|a^{-1}|=|a|^{-1}$ となる。

絶対値の乗法性より $|a||a^{-1}|$ $= |aa^{-1}|=1$。

順序体の構造

ここでは、順序体の代数構造に関するいくつかの定理を述べる。

下で用いる『標数』は環に対して定まるパラメータで、1 を何回足したら 0 になるかを表す自然数である。ただし、整数のように何回 1 を足しても0にならない場合の標数は 0 である。中学数学までで扱う代数構造はみな標数が 0 であるので、1 を何回か足したら 0 になるというのが想像しにくいかもしれないが、たとえば元が有限の $n$ 個しかない有限環の標数は 1 以上 $n$ 以下である。このようにさまざまな標数の環を考えることができるが、順序体については以下に示すように標数は 0 に限られる。

補題$0_K\neq 1_K$ である任意の順序体 $(K,+,\cdot,\leq,0_K,1_K)$ の標数は 0 である。

(証明) 数学的帰納法を用いて $1_K$ を $n$ 回足したもの\[\psi(n)=\left\{\begin{array}{ll} 0_K & \text{if $n=0$} \\ \psi(n-1)+1_K & \text{if $n\gt 0$} \end{array}\right.\]が $0_K$ より大きいことを示す。

まず $\psi(1)=1_K$ は前提と命題より $0_K$ より大きい。

次に固定された $n$ について $\psi(n)\gt 0_K$ とする。このとき $\psi(n+1)$ $=\psi(n)+1_K$ $\gt 0_K+1_K $ $\gt 0_K$。

以上より任意の正の自然数 $n$ に対して $\psi(n)\gt 0_K$ だから $\psi(n)\neq 0_K$。

順序体 (順序環) の標数が必ず 0 であるということは、標数が 0 でない体 (環) には演算と両立する全順序を与えることができないということでもある。

また、順序体の標数が 0 であるという事実から以下の定理を得ることができる。

定理$0_K\neq 1_K$ である任意の順序体は整数環 $\boldsymbol{\rm Z}$ を部分環として含む。

(証明) 補題より順序体の標数は 0 である。標数が 0 である任意の環は整数環を部分環として含むので、順序体も整数環を部分環として含む。

定理$0_K\neq 1_K$ である任意の順序体は有理数体 $\boldsymbol{\rm Q}$ を部分体として含む。

(証明) 定理より順序体は整数環を部分環として含む。整数環を部分環として含む体は有理数体を部分体として含むので、順序体も有理数体を部分体として含む。

以上より順序体の特定の部分集合は整数環や有理数体として扱うことができるので、以下ではそれら部分集合を指して $\boldsymbol{\rm Z}$ や $\boldsymbol{\rm Q}$ と書くことにする。

この節では $0_K\neq 1_K$ を前提としてきたが、これは重要な前提である。なぜなら、もし $0_K=1_K$ だと全く異なる構造となるためである。

定理$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ を順序体とし、$0=1$ とする。このとき任意の $a\in K$ に対して $a=0$。

(証明) $a\in K$ とする。$0=1$ より $0\cdot a = 1\cdot a$。したがって $0=a$。

つまり $0=1$ だと $K=\{0\}$ ということになるのである。このように単一の要素のみからなる体 (環) は自明な体 (環) と呼ばれる。場合によっては体 (環) であるための条件に $0\neq 1$ を付け加えることで、自明なものを体 (環) と呼ばないようにすることもある。

標準順序体

順序体はその性質によって標準なものと超準なものに分類される。簡単に言えば無限大に相当する元が1つ以上含まれる体が超準なもので、そうでないものが標準なものである。これらを定義する前に、まず元の性質として無限大・無限小を定義する。

定義$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ を順序体とする。$a,b\in K$ について、$|a|$ を何回足しても $|b|$ より小さいとき、$a$ は $b$ に対して無限小であり、$b$ は $a$ に対して無限大である。

$a\in K$ について、$a$ が 1 に対して無限大であるとき単に $a$ が無限大であると言い、$a$ が 1 に対して無限小であるとき単に $a$ が無限小であるという。

定義$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ を順序体とする。この順序体に無限大が存在しないとき、$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ は標準である。

例えば、高校数学で扱う有理数体・実数体は標準順序体である。また、高校数学で扱う自然数半環・整数環も体ではないが、他のある元に対して無限大か無限小であるような元が存在しないという点で標準である。

もっと厳密には、集合論で最小の超限順序数として定義される自然数半環 $\omega$ は標準であり、これをもとに構成される整数・有理数・実数も標準である。一方でペアノ算術のみによって自然数を論じる場合、そこで「自然数」と呼ぶものが標準であることも超準であることも証明できず、どちらにも共通する定理しか証明できない。

以降では集合論を前提とし、順序体 $K$ の部分半環として\[\boldsymbol{\rm N}=\{\psi(n)\in K \mid n\in\omega\}\\ \psi(n)=\left\{\begin{array}{ll} 0_K & \text{if $n=0$} \\ \psi(n-1)+1_K & \text{if $n\gt 0$} \end{array}\right.\]のように自然数集合 $\boldsymbol{\rm N}$ を与えることとする。この $\boldsymbol{\rm N}$ はペアノの公理 (関係の公理も含む) を満足するという点で自然数と呼んでも差し支えない。しかもこの $\boldsymbol{\rm N}$ は $\omega$ と同様に標準であり $1+\dots+1$ のように 1 の有限回の和で表される元しかないので、$a$ が無限大であることは「任意の $n\in\boldsymbol{\rm N}$ に対して $n\lt |a|$」と厳密化でき、$a$ が無限小であることは「任意の $n\in\boldsymbol{\rm N}$ に対して $n|a|\lt 1$」と厳密化できる。また、この $\boldsymbol{\rm N}$ を使えば前の節で述べた $K$ の部分環 (部分体) としての整数や有理数も\begin{eqnarray}\boldsymbol{\rm Z}&=&\{x\in K \mid \exists n[n\in\boldsymbol{\rm N}\land(x=n\lor x=-n)]\} \\ \boldsymbol{\rm Q}&=&\{xy^{-1} \in K \mid x\in\boldsymbol{\rm Z},\:y\in\boldsymbol{\rm Z}\setminus\{0\}\} \end{eqnarray}と端的に書くことができる。

さて、標準順序体の定義では無限大のみについて言及していて無限小の存在について何も述べていないが、次の命題が成立することから、標準な順序体には無限大も無限小も存在しないことになる。

命題$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ を順序体とする。この順序体に無限小が存在することと無限大が存在することは同値である。

(証明) $a$ が無限大であるとき、任意の $n\in\boldsymbol{\rm N}\subset K$ に対して $n\lt |a|$ であるが、このとき命題命題より $0\lt |a|^{-1}=|a^{-1}|$ であるから $n|a^{-1}|\lt 1$ であるので $a^{-1}$ が無限小となる。よって無限大が存在するとき無限小も存在する。

同様にして $a$ が無限小なら $a^{-1}$ が無限大であるので、無限小が存在するとき無限大も存在する。

稠密性

任意の順序体 $(K,+,\cdot,\leq 0,1)$ は、以下のような稠密性を持つ。

定理任意の $a,b\in K$ に対して、$a\lt b$ であるときある $x\in K$ が存在して\[a\lt x\lt b.\]

(証明) $x=2^{-1}(a+b)$ とすると当てはまることを示す。$a\neq b$ であるので $K$ は自明な体ではなく、つまり $0\neq 1$。したがって、命題より\[2=1+1\gt 1\gt 0\]であるので命題より\[2^{-1}\gt 0.\]したがって、$a\lt b$ より \[2^{-1}a\lt 2^{-1}b\]である。このことから\[a=2^{-1}a+2^{-1}a\lt 2^{-1}a+2^{-1}b = x, \\ b = 2^{-1}b+2^{-1}b\gt 2^{-1}a+2^{-1}b = x\]がわかるので\[a\lt x\lt b.\]

また、標準な順序体については以下のことも成立する。

定理$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ を標準順序体とする。$A\subset K$ を上に有界であるとし、その上界を $A'$ とする。このとき、任意の正の有理数 $\varepsilon\in \boldsymbol{\rm Q}\subset K$ に対してある $a\in A$, $a'\in A'$ が存在して\[a'-a\lt\varepsilon.\]

(証明) 数列 $(a_n)_n$ と数列 $(a'_n)_n$ を次のように考える。まず $a\in A$, $a'\in A'$ を満たす $a$, $a'$ は存在するので、それらを使って\[a_0=a,\\ a'_0=a'\]とする。ここで $b=2^{-1}(a_0+a'_0)$ とすると、「$b$ は $A$ の上界に含まれる ($b\in A'$)」か「$b$ は $A$ の上界に含まれない」のいずれか一方のみが成り立つ。もし前者であれば\[a_1=a_0,\\a'_1=b\]とし、後者なら $b\lt x$ となる $x\in A$ が存在するのでその $x$ を用いて\[a_1=x,\\ a'_1=a'_0\]とする。こうすることで、$a'_1-a_1$ は $a'_0-a_0$ の $2^{-1}$ 倍以下になる。以降も同様に\begin{eqnarray}a_{n+1} &=& \left\{ \begin{array}{ll} a_n & \text{(if $2^{-1}(a_n+a'_n) \in A'$)} \\ x_n & \text{(otherwise)}\end{array} \right. \\ a'_{n+1} &=& \left\{ \begin{array}{ll} 2^{-1}(a_n+a'_n) & \text{(if $2^{-1}(a_n+a'_n) \in A'$)} \\ a'_n & \text{(otherwise)}\end{array} \right.\end{eqnarray}と定めることで任意の自然数 $n$ に対して $a_n\in A$, $a'_n\in A'$ であり\[0\lt a'_{n+1}-a_{n+1} \leq 2^{-1}(a'_n-a_n)\]となる。したがって、\[0\lt a'_n-a_n \leq (2^{-1})^n(a'_0-a_0)\]である。

$K$ を標準としているから $0\lt a'_0-a_0\leq c$ を満たす自然数 $c\in\boldsymbol{\rm N}\subset K$ が存在する。また、$\varepsilon = \frac{k}{m}$ を満たす自然数 $k,m\in\boldsymbol{\rm N}\subset K$ が存在する。このとき\[(2^{-1})^{mc}(a'_0-a_0)\lt \varepsilon\]であるので $a_{mc}$, $a'_{mc}$ が定理が存在を主張する $a$, $a'$ である。

補題$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ を標準順序体とする。$A\subset K$ を上に有界であるとし、その上界を $A'$ とし、$A\subset\boldsymbol{\rm Q}$ とする。このとき、任意の正の有理数 $\varepsilon\in \boldsymbol{\rm Q}\subset K$ に対してある有理数 $a\in A$, $a'\in A'\cap\boldsymbol{\rm Q}$ が存在して\[a'-a\lt\varepsilon.\]

(証明) 定理の証明において、最初に $a'_0$ を定めるときに $a'\lt n$ を満たす自然数 $n$ を用いて $a'_0=n$ とすることで、数列 $(a_n)_n$ と $(a'_n)_n$ の要素はすべて有理数となり、最後に得られる $a_{mc}$, $a'_{mc}$ も有理数である。

定理$(K,+,\cdot,\leq,0,1)$ を標準順序体とする。任意の $a,b\in K$ に対して、$a\lt b$ であるときある 有理数 $x\in \boldsymbol{\rm Q}\subset K$ が存在して\[a\lt x\lt b.\]

(証明) 定理と同様の証明をしてもよいが、ここでは補題を利用することにする。

$K$ は標準だから $n(b-a)\gt 1$ を満たす自然数 $n$ が存在するので $\varepsilon=\frac{1}{n}\in\boldsymbol{\rm Q}\subset K$ とすると $\varepsilon \lt b-a$。

$K$ の部分集合 $A$ を\[A = \{x\in \boldsymbol{\rm Q}\mid x\lt b\} \]と定める。このとき $A$ の上界を $A'$ とすると、$a\in A$, $b\in A'$ である。このとき補題より\[y-x\lt \varepsilon\]を満たす有理数 $x\in A$, $y\in A'\cap\boldsymbol{\rm Q}$ が存在する。このとき $A$ と $A'$ の定義より\[x\lt b \leq y\]であり $\varepsilon\lt b-a$ と $y-x\lt \varepsilon$ より\[y-x\lt b-a\]である。したがって命題より $a-b\lt x-y$ であり、命題と $b\leq y$ より $a\lt x$。以上より\[a\lt x\lt b.\]

数学  2018/06/03  k.izumi