集合の言葉を使う目的

このシリーズでは、集合論の言葉でどんなものを表現できるかを紹介していく。その前段階として、この記事では『集合論の言葉』とは何かということと、集合論の言葉で表現する利点について述べておく。

集合論の言葉とは

これからシリーズを通して推していく予定の『集合論の言葉』とは何かをまず述べるべきであろう。数学の基礎 (初等的な数学という意味ではない) を知っている者には『公理的集合論の言葉』や『ZFC公理系による一階述語論理』と言えば意図が通じるであろうが、この記事ではもう少しかみ砕いて簡素にする。

上で述べた『公理的集合論の言葉』をかみ砕いて表現すると、『集合だけの論理』である。すなわち、この言葉を使った説明の中ではモノとして集合しか現れず、集合についてしか説明することができない。このシリーズは、このような言葉を使ってできることを例示していく。

集合論の言葉の汎用性

これだけ聞くと「集合だけ説明できても、自然数も実数も関数も図形も確率も説明できないんじゃ使いどころ少ないんじゃないの」と思うだろうが、そうではない。集合論の言葉の中では「こんな集合を 0 とよぶ」「こんな集合を関数とよぶ」「こんな集合を三角形とよぶ」のようにあらゆる対象を集合としてとらえることで、その対象について議論することができるようになる。

そんなことが本当に可能なのかと思うかもしれないが、集合論の言葉は表現力が強く、たいていの対象についてそれを集合と見なして説明することができることが知られている。実際、大学数学レベルになると線形代数学でも微積分学でも抽象代数学でも測度論 (面積・体積等を論じる) でも確率論でも、程度の大小はあれど集合の言葉が必ず使われるし、その気になれば今あげたものすべてを集合論の言葉だけで論じることもできる。これほど便利で当たり前に使われている言葉を習得しない手はないだろう。最初にちらっと書いたが、集合の言葉は数学の『基礎 (土台)』である。

完璧?な論理

集合論の言葉を使う利点は汎用性のほかにもう一つある。それは、集合論の言葉に今のところ矛盾が見つかっていないという点である。矛盾とは「○○であり、○○ではない」のように同じ命題○○についてその肯定も否定も成立することを指し、数学では無矛盾律 (矛盾がないこと) を前提に論理を作っている。そのため、矛盾は数学では忌み嫌われており、矛盾がないことが論理に要求される。その点で、矛盾が見つかっていないというのは大きな長所となる。

ここまで「矛盾が見つかっていない」という言い方をしているが、「だったら矛盾が無いことが証明できた論理の方がいいんじゃないの」と思われるかもしれない。しかし、ある論理を使ってその論理そのものに矛盾がないことを証明するのは難しい (ゲーテルの不完全性定理)。さらに言えばZFC公理系による一階述語論理では、その論理に矛盾があることを証明できないことが証明されている。したがって、「矛盾が見つかっていない」というのが起こりうる最良の状態なのである。

この矛盾が見つかっていない論理を基礎にした説明は (推論を誤らなければ)、やはり矛盾の見当たらない説明となる。矛盾を忌み嫌う数学者にとっては素晴らしいことこの上ない。

まとめ

集合論の言葉を使う利点として

  • 集合論の言葉の汎用性と
  • 集合論の言葉 (とくにZFC公理系) に矛盾が見つかっていないこと
の二つが挙げられるので、このシリーズでは集合論の言葉を習得する。ただ、ZFC公理系と一階述語論理を一から勉強するのでは目標の「集合論の言葉を使えるようにする」までがあまりにも長いので、このシリーズではZFC公理系の公理を適度に見つつ、もう少しラフな (素朴な) 学習で集合論の言葉に触れていくこととする。